メュ!

メュ。

メュぼやき4

うちの会社はメーカーで、製造に使用する原材料などの資材は専門の部署である資材部が一元で管理することになっている。したがって、例え日々の業務の中で抱えている課題をすべて解決しうるような有用な資材を見つけたとして、会議報告などを通して工場内で推し推しの流れに乗せたとしても、資材部がNOといえば製品には使えない(買えないので)。そこですべてがパァである。

この資材部を取り仕切っている部長がうちの会社で最も厄介といっていい存在であり、ゴミみたいな性格をしている所謂老害の分類に属するもので、一度機嫌を損ねたら最後、確実に今後の業務に致命的な打撃を与えることになる。新規資材の検討をする際には必ずこの老害と接することになり、電話口やメールのやり取りでは最大レベルの警戒を張った上で常に機嫌を伺いながらの非常にストレスフルな対応を求められる。

 

今回検討することになった新資材の購入に向けて、まず工場内を走り回り集められるだけの必要な情報を集め、購入先候補となる資材メーカーを調べ上げ、綿密な課内ミーティングを経てようやく資材部へのファーストコンタクトをするに至った。

資材部からの回答は現行品で取引している商社Aに対して相談を持ちかけてみよとのこと。商社Aの担当者も紹介してくれた。これは九分九厘そうなるだろうと想定していたルートで、幸先は良かった。

 

その後俺は商社Aとのやり取りを続けたが、結局商社A経由では入手することのできない仕様の資材であると判明し、あっさりと調査を打ち切ることにした。というのも、商社Aとのやり取りの最中に営業担当から別ルート(商社B、実際に当該案件の顧客となる商社)でその資材を供給できそうだという可能性を提示され、その方向に進むほうが圧倒的に堅いと結論を下したためだった。もちろんこれは俺の独断ではなく、打合せを経た上での課としての総意である。

 

しかし、商社Bとは資材の取引実績がない。最近になって営業担当が商社Bからの資材購入について資材部と相談したそうだが、結論はやはりNOで、既に取引実績のある商社経由で同等品を探さなくてはならなくなった。

 

事前に工場内を這いずり回って掻き集めた情報では、同カテゴリの資材は商社Aからしか購入していない。その商社Aがうちでは要求の仕様の資材は供給できないと断言したのだから、この件について俺、ひいてはうちの課がこれ以上できることは何もない。俺は資材部に実現可能な供給ルートの調査を依頼した。俺が時間をかけて調査して案を提示したところで、一言跳ね除けられたらその労力は全て水泡に帰すのだから、最初からこうしてしまえばよかったのだ。

現場のデリバリー担当からは、同カテゴリの資材は件の老害の部下にあたる社員Cが担当しているという情報を得ており、最初の資材部への相談もまずはCに持ちかけていた。Cへ探している資材の仕様と過去に俺がリストアップした資材メーカーの一覧をメールで連絡し、あとは返答を待つだけと思われた。

この件はすぐにCが老害へ報告するだろう。

 

決して踏んではいけない地雷は全て回避した。

 

と思われた。

 

 

 

地雷は突如ホーミング機能をONにし、先を歩いている俺の方へ、回避不能な速度で急接近する。

 

 

 

あっ、、

 

 

 

 

接触。》

 

 

 

 

 

 

 

大爆発――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

突如バイブを揺らす俺の携帯。

この日、本社へ出張に出ていた課の主任からの電話だった。

 

 

「お前、資材部に何を依頼した?(俺の名前)という奴と(営業担当)という奴が資材部に相談もせず勝手に動いたと、部長の逆鱗に触れていたぞ」

 

 

は?

 

資材部とは綿密に相談は重ねた。その時のメールも残っている。

 

 

 

『この件はCがすぐに老害に報告するだろう。』

 

 

 

あっ

 

 

刹那、この意味不明な連絡に繋がるバラバラな情報のピースがカチカチと音を立てて嵌められていき、即座に一枚の絵が脳内で完成する。

 

 

Cが鼻糞をほじりながら仕事を疎かにしている絵である。

 

 

俺は慢心していた。工場からの資材購入依頼であれば、自分の担当の範囲内なら必ず上司と報連相をして情報を共有するものだと。

 

Cへのファーストコンタクトのメールには、老害へのCCを付け忘れていた。これはCが報連相を一切怠っていれば、俺からの伝言ゲームは老害に伝わらずにそこで途絶えることをそのまま意味する。ゲームオーバーが内定する。

 

結果、資材部のトップである自分に無相談で勝手に資材購入先を漁った、社内ルールを無視した糞野郎という認定が俺に対して老害の中で下されるという、最悪のバッドエンディングルートにケツから乗っかってしまったのだ。

 

その後、老害から史上最悪のメールが俺宛に届く。

 

 

「貴方は現行取引中のメーカーDに相談するという資材部に無相談でできる行動の中では最初にやるべきことをせず、一度も取引したことのない商社A経由で資材を購入しようとし、挙句私に無相談で私が知らないメーカーに直接コンタクトを取るという最悪の行為をしました。会長からも資材部に無相談で工場が勝手に動いた件については決済を切るなと言われており、もう何もしません。貴方は非常識な糞野郎なので死んで下さい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

BAD END.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このメールの文章にはほぼ全編に渡って矛盾が内包されている。

 

まず、現行取引中のメーカーDは現行取引中ではない。

一度も取引したことがないという商社Aは現在の唯一の取引先である。

無相談でメーカーに掛け合うという行為については、直前に老害とC宛に送っていたメールの中で一切していないと強調して明記している。こう言われるであろうことを事前に容易に想定できたからだ。

 

要するに、全てが間違っている。

Cが怠慢したこと、老害がまともにメールの中身に目を通さなかったこと、現場のデリバリー担当が資材購入先の切り替えを資材部にダマテンで数年前に終えていたという、想定外も想定外すぎるあまりにもあり得ない状況のこと。全ての最悪が奇跡的な確率で重なり合った結果招かれた最悪中の最悪の誤解が、重すぎる濡れ衣として俺に全て着せられた形である。

 

すぐにでも異を唱えたいと一瞬怒りが過ったが、会長の名を出されたことで俺の意識には夥しい物量の焼夷弾が降り注ぐ。

 

感情はシャットアウトされ、空気も光も何もない、虚無そのものへ投げ出される。

 

 

 

 

 

視界が暗転する。

何も分からない。

何も感じない。

呼吸もできない。

 

 

 

 

 

 

俺はこれからどうなるのだ?

このまま仕事を続けられるのだろうか?

 

 

半泣き状態で、今の上司である課長に事のあらましを全て伝えた。

課長はお前は何も悪くないとフォローしたうえで、老害に対して誤解を解くように即座に連絡を入れてくれた。

 

なんて良い上司なんだろう。糞前上司ならば、俺をとことんオーバーキルするつもりで最低でも2時間はフルパワーで詰め続けたことだろう。

 

課長の計らいで絶望的な窮地からは幾ばくか脱出できそうなものの、金曜のほぼ帰る直前に遭遇した未曾有の大災害に見舞われた後に虚無から戻ってこられるはずもなく、車内の天板を見ながら今とても辛い気持ちでこの記事を書いている。

 

月曜にならないと事態の収束も起こらないので、この週末は魂が抜けきった状態で過ごすことになりそうだ。

 

早く楽になりたいな。