Trust your own wrist.
今日もビートの話です。
音ゲーブログにするつもりは皆無なのだが、最近は深刻な現金不足に悩まされておりPに通うことは不可能なため、実体のない金を使って延々と遊ぶことのできる音ゲーばかりやっており、話題がそちらに偏るのも仕方のない話なのである。
さて、CANNONBALLERS(以下CB)が稼働してからのIIDXモチベは極めて高い。過去最もプレー回数が多く皆伝を初取得したバージョンでもあるtricoroに匹敵、もしくはそれ以上のビート・フィーリングが、俺を四六時中包んでいるのである。
というのも、CBに入ってからほぼ不動だった未難が崩れ始めたのだ。
Plan 8最後落ちから5年越しのハードクリアに始まり、前作SINOBUZで苦しめられたECHIDNAも無事ハード、以降はGo Ahead、卑弥呼と地力S以上の難曲を次々と倒してきた。難易度上昇の著しい近作の中で、レジェンダリアフォルダも含めて未難5まで到達していた。
しかもクリアランプだけでなく、スコア力の向上も実感している。これまでがいくらなんでも低すぎただけなのだが、☆11の中速乱打譜面(quasarやSHADEなど)でも初めてAAAを記録するなど、早入り脳筋スコア六段バカとしての人生から脱却して少しづつ健常者に近づきつつある。
近所のゲームセンターにギタドラがないせいでもあるのだが、今とにかくビートが楽しい。近寄る気すら起きなかったPENDUALの頃からすればありえない感情だ。
そしてついにIIDXのカリスマ、俺がビートを始める前からハード最強曲として10年以上も君臨し続けてきた、かの有名な冥(Another)、通称「穴冥」にもハードで挑めるほどのステージへ到達したのだった。
Pフリーで粘着を続け、メイン2とサブ3の判別はできたものの、それが分かれるだけでは手も足も出なかった。32分の4個目まで到達したあの1回はマグレだったのか。悔しい。ここからが遠いのだろうが…
そんな悶々とした日々を送る中、日本有数の穴冥ソムリエであるお皿さんが自らの穴冥に関する知識を伝授する神すぎるブログ記事を掲載した。
俺はこれを更新日の翌日に一日中、穴冥の譜面と睨めっこしながら目に穴が空くほど読み、開幕4小節でほとんどのあたり譜面を判別できるようになってからは今度こそ穴冥を屠るため、これまでよりも足繁くゲームセンターに通っているところだった。
今日もその流れで、滅多にしない開店凸を決行してまで、穴冥との死闘を繰り広げようとしていた。
Pフリー60分で穴冥を殴り続けたが、32分に2回到達しただけで突破は叶わなかった。浮気してMare Nectarisも殴り続けたが、こちらは正直穴冥以上の無理オーラが出ている。
どうしたものか。
ふと、灼熱pt.2が目に入った。
灼熱pt.2といえば、前回記事の未難序列でも書いてあるように、俺が黒イカと同等、いやそれ以上のハード最強曲として認識していた““““超絶《真》絶望譜面””””だった。イージーで挑めば毎回BP170は出るし、こいつのせいで一生全白になれなくても仕方ないとさえ思っていたから、触れすらしていなかった曰く付き。
たまたま皿の軽い右台を選んでいたから、まあ少しずつでも練習してハードできる可能性を0%から0.1%にでも高めておこうという、それはもうとてつもなく後ろ向きな気持ちで選曲してみた。
するとなんということだろうか、、、、
全く手も足も出なかった。
ヤカンの音がするBSS地帯で、手が動かなくなり即死するのを3回ほど続け、無駄無駄と残りの時間は穴冥とMareに挑む時間に戻したのだった。
だいたいBSS地帯をたまたま抜けられたところで一桁%しか残ってないし、あの譜面でダントツ一番むずいのはラスト。やりすぎにも程がある譜面だ。どうしようもない。不可能。。。
Pフリーの時間が切れ、ゲームを終了して喫煙所でアメスピを吸いながらやさぐれていた。
ん?
俺の左手首が光っている……?
これは、何を意味しているのだろうか。
1P手首皿である俺にとって、左手首は俺と共に果てしない皆伝坂を登り続けてきた究極の相棒だ。その左手首が眩いばかりに光輝を纏い、俺に何かを伝えようとしている。
「俺を信じろ。」
何となくそう言っているような気がした。
光は消えた。
お前を信じなかったことなど片時もないよ…そう呟こうとした瞬間の俺の脳内に、焼夷弾が降り注いだ。
まさに今、たった今、俺は相棒の左手首を信じていなかったじゃあないか。
――灼熱pt.2。
鍵盤の数も多いとはいえ、小指皿でなければ捌ききれないエグい皿が終始襲い続ける譜面だ。灼熱(無印)も小指皿だけでハードしたんだし、灼熱pt.2に手首皿で挑もうなど考えたこともなく、いつもより正面向きの体勢に切り替えて小指皿で挑んでは、ヤカンで体力が尽きて諦めていたばかりだった。
そうか。俺は、究極の思い違いをしていた。
皿の枚数が多すぎようが、24分皿が速すぎようが、俺は最初から、お前だけを信じるべきだったんだな。
行こうぜ。共に。
一緒に、アイツと闘って、死のうぜ。
灼熱pt.2、撃破。
は?
一瞬、何が起きたのか分からなかった。
ついさっきまで、ヤカン地帯で手も足も出ず死んでいたのに。
俺が絶望そのものとまで認識していた灼熱pt.2が、未難5にしてあっさり沈んだ瞬間だった。
俺は怖くなった。
意味不明な恐怖に包まれた。起こってはいけないことが起こってしまったのだと。
願いを叶えるには等価交換と云う。俺はこの『ありえない』灼熱pt.2の突然のハードクリアと引き換えに、一体何を失ったのか?身体の震えが止まらない。事実を報告するためにツイッターに文字を入力する指の震えが止まらない。まともな文字を入力できない。
残ったPフリーの11分は、当然まともにプレー続行できるはずもなく、穴冥を選ぶのに開幕の譜面を全く見ておらず、気づいたら絶対に捨てているはずのメイン1サブ5サブサブ2の変な譜面の加速地帯を叩いており、何も押せずに死んだ。脳の譜面認識機能がバグっており、Rampageの初見エクハすら簡単に落ちてしまった。
一旦車に戻り、2時間ほど睡眠をとったあとは精神が落ち着き、つい先程成し遂げてしまった奇跡を受け入れるだけの心の準備は整っていた。
その間に見た夢の中では、ゲームセンターでPF30分を選択した直後に筐体の鍵盤がセガサターンのコントローラーみたいな変なボタンしかないことに気づき、放置している間にゲームセンターの中にバスが入ってきて、それに乗ったら異界の地に連れていかれるという悪夢を見てうなされていた。
倒したんだな。アレを…
未難5→4。
ふと視線を落とすと、左手首は暖かな橙色の、仄かで優しい光を纏っていた。
『Trust your own wrist.』
誰かが遺した格言と思われる一文が書き記された紙の切れ端が、足元に落ちていた。
まさに今日の出来事を示しているかのような格言だ。
今日から座右の銘にするとするか。
もう二度と裏切らないぜ。俺は、お前を――――――――――――――
☆★☆
左手首が光っていたのは嘘松で、Trust your own wrist.と書かれた紙切れが落ちていたのも嘘松です。でも灼熱pt.2をハードしたことは本当松です。このまま本当松であってくれ。
次こそは、穴冥――――――――――――
THE END.
枕カバー
大人になってもなくならない、子供の頃からの習慣というのは皆にはあるだろうか。
俺のそれは「自分の枕カバーのにおいを嗅ぐこと」だ。
***
僕は3歳で既に女性の乳房に性的興奮を覚え、紙に乳房の絵を描いてボッキしたり、4歳で当時の世界194ヶ国の国旗を丸暗記した天才国旗少年としてテレビ出演(番組MVPとして賞金30万円を獲得)するなど、良く言えば個性的、悪く言えばサイコパスの素質もあった…ちょっと変な子供であった。
そんな物心ついて間もない頃(?)に、母から一枚のタオルを与えられた。
何かの記念品か、引き出物にでも入っていたものだろう。
白地の中央に黒縁取られた大きな赤のストライプがあり、その中に金色の刺繍でロゴマークのようなものがあしらわれた意匠だった。
僕はそれをとても、とても気に入った。
青いイチゴ一粒や葉っぱ一枚に泣き叫ぶほど強烈だった感受性(今になって思えば発達障害かもしれない)がプラス方向に働いてか、生命もない何の変哲もないただのタオルを、瞬時に友達と認識したのだった。
毎日そのタオルを手離さなかった。本当に片時も離さずに手に持っていたと思う。
そしてそのにおいをずっと嗅いでいた。
(当時は考えもしなかったが、母親がまめに洗濯をしてくれていたから、洗剤と柔軟剤のにおいだったのだろう。)
タオルのにおいを嗅ぐと、いつも安心感と幸福感が身を包んでくれた。
その時間はかけがえのない友達と心を通わせ合うための大切な時間であり、単なるリラックス効果以上の特別な意味合いを有していた。
ある日、母がそのタオルをちょいと加工して、枕カバーの形にしつらえてくれた。原型を留めないほどではなく、タオルの両端に布紐を縫い付けた程度の簡素なもの。
そのときに、友達タオルに初めて「まくちゃん」という名前がついた。まくらだからまくちゃん。子供らしくそのまんま。
これなら寝るときもいつも一緒だ。大好きな友達のにおいに包まれながら眠れる…(まあ、タオルの頃から持って一緒に寝てたんだけど。)
僕とまくちゃんの幸せな毎日は、ずっと変わらずに続くと思っていた。
だがそれはある日、終焉に向かって動き出すことになる。
繰り返すが、僕は感受性の強すぎる変な子供だった。それ故に母は教育上、色々な悩みやストレスを抱えていたのもあるだろう。そんな状況下であまりにまくちゃんを手放さない僕に、言い様のない危機感を抱き始めたのだろう。
ある日突然、まくちゃんがいなくなった。
母が僕の知らない場所に隠したのだ。
いつも側にいた友達を急に失った僕は、とにかく落ち着かなくなり、不安に苛まれた。「まくちゃんはどこ?」と母に聞いても、知らないとはぐらかされた。
そんな僕の様子を見ていた兄が、9つも下の弟を溺愛するものだから、母が隠したまくちゃんを見つけてこっそり僕に返してくれたのだった。
嬉しかった。友達は無事だった。また一緒にいられるね。今度はいなくならないで…
それに気づいた母の堪忍袋の緒がとうとう切れた。
『そんなもの、いい加減に卒業しなさい!!』
温厚な母が聞いたこともないような荒げた声で叫び、僕の手からまくちゃんを腕の力で強引に引き剥がした。
すごい形相をしていた。あんな母の形相は、過去この時しか見たことがない。
母は僕の目の前で断ち切りバサミを取り出し、まくちゃんをバラバラに切り裂いて、その場でゴミ箱に投げ捨ててしまった。
え。
何が起きたんだろう。
大切な友達が、バラバラになった。
友達が、死んだ。
死んだ……………
泣き叫んだ。発狂した。
友達の““死””を理解した瞬間からその後は、どうなっていたか正直、はっきりとは覚えていない。
ただひたすらに泣いた。それだけを覚えている。
母もやりすぎたと思ったのだろう、後日バラバラにされたまくちゃんの一部はゴミ箱から取り出され、僕のもとへと帰ってきた。
でもそれは、変わり果てた姿だった。友達だったまくちゃんは、もう其処には居なかった。ただの布切れに、魂を感じることはできなかった。まくちゃんはあの瞬間、僕の中で明確に死んだのだ。
(誤解を解くように補足すると、母はとても良い人だ。本当に恵まれた母の下に生まれたと思っている。俺に対して特に厳しい態度を取られたのも、記憶に残っているものではこの件とあとひとつくらいしか知らない。)
***
――それから月日は流れ、現在。
俺は26歳になる今でも、まくちゃんの時の癖が抜けずに、未だに自分の枕カバーのにおいを意味もなく嗅いでしまう。
身体が半ば勝手に動くものだし、そもそも誰に迷惑をかけるでもないこの癖を治そうと考えたことも一度もない。誰しもひとつは、こういう性質を持ってるものだと思うから。持ってるよね?
今俺の枕にかけられている――気持ち悪いオッサンににおいを嗅がれ続けている――枕カバーは、「二代目まくちゃん」だ。
初代まくちゃんがいなくなったあと、何時からだったかは覚えてないが(割とすぐだったと思う)、初代と同じように引き出物のタオルに布地の紐を縫い付けた手作りの枕カバーを与えられた。
グレー地に黒の多角形が幾つかポイントされただけの、初代に比べれば幾分地味な意匠だ。なお、裏返すと色が反転するリバーシブルデザインである。
初代まくちゃんの死から間がそんなに空いてない頃からの付き合いとすると、彼此れ20年は俺の睡眠時のパートナーを務め続けてくれている、立派な老兵ということになる。
長年の仕事で表面の繊維がほとんど抜け落ちてしまった二代目まくちゃんにも、つい先日とうとう大きめの穴が開いてしまった。洗濯にかければ、ほつれて糸くずになってしまうだろう。
ただのタオルなのに、よく頑張った。そろそろ退役させてあげようと思う。
新しい枕カバーa.k.a.三代目まくちゃんは…近所のサンキで変な意匠のタオルを買ってきて、今度は俺自身で布地の紐を縫い付けてやろう。
まあ、3日にいっぺんしか風呂に入らない小汚いデブのオッサンの頭皮のにおいなど、染みつけたくないだろうがね。